その10: 1年半の空白とColor Classic II の購入

 さて、いよいよMacintosh 時代に突入かと思いきや、ちょっと横道にそれて、僕がパソコンにまったく触れなかった1年ちょっとの話をします。

4畳半の新天地

 僕は1992年の6月にアメリカのミシガン州の高校を卒業して、約9年ぶりに日本に帰ってきた。そこから帰国子女枠での大学受験が始まるというわけ。で、僕がやってきたのは、父方の親戚がいる東京・池袋だった。その親戚は二世帯住居を持ち、長年にわたって浪人生向けの下宿屋さんをしていた。僕はアメリカの学校制度の違いから自動的に浪人することになったので、ここに入ればちょうどよかった。

 僕の部屋は4畳半で、トイレも風呂も他の3人と共用。広々としたミシガンに育った僕には、ある意味で新鮮だった。いろんな意味で日本が真新しく感じるので、さして抵抗も感じなかった。ただ、狭いことは狭い。アメリカから持ち帰ったギターの置き場所を確保するだけでも一苦労だった。それに受験生ということもあって、パソコンはしばらくお預けとなった。

 もっとも、くどいようだけど、当時は日本での体験がすべて新鮮で、新しい友達もできて外で遊びほうけていて、あまり部屋にこもってパソコンをいじろうという感じにもならなかった。受験が終わって、2月ぐらいにようやく6畳一間のワンルームマンションに引っ越したが、なぜかその直後、僕はパソコンではなくてワープロを買ってしまった。

自称「作家」だったから……

 なぜあんなにパソコン好きだったのに、ワープロを買ってしまったのか? はっきりとは思い出せないのだが、振り返って推測すると、それはきっと、パソコンが無茶苦茶高価なものに見えたからだと思う。僕がその時購入したワープロは8万円ぐらいのものだったから。

 それに僕は、なによりもまず文章を書きたかったのだ。9年ぶりに日本に帰国して、好きなだけ本屋にいって好きなだけ本を買ってむさぼり読んでいた時期で、そのころに読み始めた作家の小説に触発されて自分も小説が書きたくてうずうずしていた。アメリカにいた頃はApple IIgs で日本語を使うなんて技術的に考えられないことだったから、やはり日本から送ってもらったパナソニックのワープロを使っていた。その流れで、この時も同じパナソニックの後継機種を選んだのだ。

 さらに時は流れ、1993年の4月に大学に入学して体育会のレスリング部に入るとますます慣れない上下関係とかで気が滅入ったりして、加えてアルバイトをしなくては生活費が足りないようになって、モーレツにスポーツとアルバイトばかりしていた矢先に彼女ができたりして、ますますパソコンから遠ざかるようになった。いつの間にか働きすぎて、この年の秋には貯金もかなり貯まっていた。

ミュージシャンの血、再び

 そんな矢先、本屋でふとレコーディング関係の雑誌を手に取ってしまった。むむ、そこにはMacintosh でMIDI ばりばり、ホームレコーディングもがんがん! という世界が展開されていて、過去にApple IIgs と4トラックレコーダーを使って自作の曲を80曲近くもレコーディングしていた自分を思いだしてしまった。そういえば最近ギターを弾いて曲をいくつもかいたのに、レコーディングをしていない……。

 しかも必要以上にバイトばかりして、お金も十分にあるじゃないか! というわけで、僕はその年の12月に渋谷のある楽器屋さんを訪れた。え? パソコンショップじゃないのか、って? そう。パソコンよりも先にRoland SC-55 というMIDI 音源を買った。そのレコーディングの雑誌に、手頃な値段で買える音源として掲載されていたから。アメリカでApple IIgs につないで利用していたカシオのおもちゃのようなキーボード(でもMIDI 対応)もあったけど、もちっと本格的にやろうと決意したのだった。

 その音源をカシオのキーボードについないで、あまり弾けないながらに鍵盤をがちゃがちゃいじっていると、もう、パソコンに制御させるのが待てなくなって、結局すぐにColor Classic II を買うことになった。いまネットで調べたらColor Classic II は1993年の10月に発売されて、当初の小売り希望価格は22万8000円だったようだ。僕が購入したのはその2ヶ月後だったけど、12万円で買った記憶がある。値崩れもいいところだ。

 当時はMIDI といえばMacintosh という時代で、それ以外のパソコンは考えられなかった。で、その中で1番安いのがColor Classic II だった。ちなみにメモリ8MB、HDD160MB。しかしその1年半前まではメモリを最大に拡張しても1MB、HDDはなく、フロッピーも800KBでApple IIgs を使っていたからそれでも十分に思えた。なんにせよ、僕はそうして初めてのMacintosh を購入し、アップル社との長い付き合いをさらに続けてしまうのだった……。

(つづく)

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