その6: 切れそうで切れなかったApple との縁

本当に新しいパソコンが必要なのか?

 1989年。日本で言えば中学2年生から中学3年生へと進級しようかという季節のある日、ついに僕はApple IIc の性能の低さに我慢ができなくなり、新しいパソコンの購入を両親に求めた。贅沢なガキだと思われそうだが、時代背景を理解して欲しい。

 我が家にApple IIc がやってきてから既に4年近くの年月が過ぎており、この間にもパソコンは容赦なく進化していたのだ。パソコン雑誌を読んでも、パソコン通信をしていても、Apple IIc の機能の限界が恨めしくなる日々だった。もっとリッチな音声で、もっとカラフルな画像で、いろいろなことをしたいではないか! と、プレステ全盛期に初代ファミコンを使っているような劣等感に苦悩していたのである。

 しかしパソコンも2台目となると、両親もなかなか首を縦に振らない。母親はまったくといって良いほどApple IIc に触れることがなかったし、父親は時に家計簿ソフトや「マウスペイント」などにチャレンジする程度だった。姉は中学でベーシックを学んだ後、高校の授業でPascal を習っていたが、それ以外でパソコンを使うことはやはり皆無であった。(注1) ようするに、僕を除けば、誰一人として新しいパソコンなど必要ないのである。

 これは人類共通のジレンマだ。パソコンに限った話ではない。高いお金を払ってデジタルハイビジョンに対応したテレビを購入する必要があるのか、というのと似ている。(注2) もっと綺麗な絵が表示できる、もっと美しい音を再生できるようになる、という程度で人にものを買わせるのは実に難しい。

パソコン戦国時代の機種選び

 しかし孤軍奮闘の状態で必死にアピールを繰り返すと、ようやく父親が「ならばどの機種を購入するのが良いのか比較してみよ」との命令を下した。ここからがまた苦難である。

 僕がApple IIc に没頭している間にも、ちまたには実に様々なパソコンが現れた。Commodore 社はゲームに強いCommodore-64 とそれをさらに強化したCommodore-128 を経て、Amiga を発売していた。Amiga は4096色を表示できるという、当時ではかなりの優良機種だ。ビデオ映像の編集と言えばAmiga が利用されている、というような評判もあったように思う。

 Atari 社もがんばっていた。Atari ST という機種があって、画像表示や音声出力こそCommodore Amiga に劣るものの、MIDI といえばAtari ST というぐらい、MIDI では優位に立っていた。パソコンで音楽をやりたい僕としては、見逃せないポイントだ。

 いわゆるIBM 互換機も、徐々にビジネス意外の分野へと進出し始めていた。特にこのころはTandy というブランドがシェアを伸ばしていて、IBM 互換機が家庭でも使われ始めていた。一方、Macintosh もじわりと進化を遂げつつあったが、価格が他機種に比べて異様に高かったことなどもあって、まだまだ陰が薄かった。

Apple IIgs に落ち着いたわけ

 それだけの候補がありながら、新しいパソコンは結局、Apple IIgs となった。Apple IIgs はApple IIe やIIc の後継機種で、4096 色を表示できるのに加え、シンセサイザーにも使われるEnsoniq のチップを搭載して16 音を同時に鳴らすことができる。(注3) 1986 年頃に発表され、大ヒットしていたという感じではないが、そこそこには売れていたという機種だ。

 僕としてはMIDI に強いAtari ST に心が傾いていたというのが本音。Apple IIgs を選んだのは父親の裁量である。Apple IIgs ならそれまでにかき集めたApple IIc 用のソフトも、プリンターもモデムも全部そのまま使えるという利点があった。当時はパソコンを買い換えると周辺機器も大半を買い換えなくてはいけないような情勢だったから、金を出す方としては賢明な判断だった。(注4)

 そうして我が家に新しくやってきたApple IIgs。ディスプレイと3.5 インチのディスクドライブもワンセットになっている。ぺらぺらですぐに壊れてしまいそうな5インチのフロッピーに比べ、3.5 インチディスクのなんと頑丈なことよ! と下らないことに驚きながら付属のデモソフトを立ち上げてみると、たかがデモソフトのくせに画面が綺麗、音もカッコイイ!

 ……というわけで、僕とApple のなが〜い付き合いは、ようやく1990 年代へと突入するのだった。

(つづく)

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参考写真: Apple IIgs(リンク切れしてしまいました)

我が家のApple IIgs はまさにこの状態でやってきました。マウスが角張っているが、当時はあまり気にならなかった。


(注1)しかも学校で使っているのが我が家のApple IIc と同級のApple IIe だった。

(注2)僕自身、デジタルハイビジョンテレビは価格が10万円を割り込んで、かつ今持っているテレビがぶち壊れない限り買わないだろうと思う。

(注3)性能という面ではかなりAmiga に近い。Amiga やAtari を意識して作られたからだという説もある。

(注4)もっとも、プリンターもモデムもあっという間に時代遅れになり、結果的にはほとんどを買い換える羽目になった。