その7: MIDI との出会い、その後のロック人生

すべてはMusic Studio に始まった

 さて、パソコンで音楽をやりたいという僕の願望は、このApple IIgs を購入したことでその大部分が満たされることになった。なにしろApple IIc のピーピーというちゃちなサウンドチップ(しかも最大3チャンネル)から解放され、シンセサイザーなどでも利用されるEnsoniq のチップ(16チャンネル)にグレードアップしたのだから。16チャンネルというのは、つまり、16個の楽器を同時にならせるようなものだ。

 その始まりは、Activision という会社が販売していたMusic Studio というソフトウェアだ。当時のApple 系の雑誌では、ともかく広告の嵐だった。他に目立つ音楽ソフトがなかったということもあって、Apple IIgs の購入後、間もなくこのソフトを買うことになった。

 画面はApple IIc で利用していたMusic Construction Set というソフトと似ていて、上下二段のスコアに音符を並べていく。ただ、楽器が16種類もあるので、各楽器に別々の色が割り振られていた。赤がギター、青がベースだとすると、同じところに重なると片方が見えなくなると言うデメリットもあった。それにしても、音符を並べるだけでパソコンがオーケストラをやってくれるのだから、便利だ。

 僕はベースの練習用に買ったバンドスコアなどを必死に打ち込んだ。当時好きだったエアロスミスからボストン、メタリカなどなど、例を挙げればきりがない。そんなわけで、僕はしばらく「打ち込んで自己満足」の世界に浸ることになった。

ベースからギターへ

 ここで若干が話が逸れるが、今回のテーマの大事な複線でもあるので、僕とギターの関係を以下に。

 1988年の秋に、僕はベースを購入した。なぜギターではなくてベースだったかというと、まわりの友達がみんなギターを持っていて、ベースをやる人がいなかったからだ。(注1) ギターに比べると地味な印象があって、そういう意味では抵抗も感じていたのだが、ギターのようにコードを抑えなくて良いという理由もあってベースを弾き始めた。

 Apple IIgs を買ってもらい、Music Studio を使い始めたのは1989年の春のこと。ベースを初めて半年がすぎていたが、まだまだ音楽の理論はちんぷんかんぷん。どの弦のどのフレットを抑えればよいかを示す「タブ譜」でとりあえず指はスムーズに動くようになってきたが、まだその程度だった。だからMusic Studio を使い始めた頃は、楽譜を見ながら「ドとミとソを縦に並べて……」と、原始的なやりかたでパソコンに音楽を入力していた。

 それが大きく変わったのは、1989年のクリスマスにギターを買ってもらったのがきっかけだった。ギターを弾き始めるとコードをバリバリと覚えて、なんとなく、自分でも曲が作れることがわかってきた。それまでにも、画面に音符を適当に並べて作曲を試みたことはあった。しかし、なんとかビートは抑えたものの、メロディーが不協和音だらけで、ピカソの絵を音楽にしたようなものになっていたのだ。(注2)

MIDI 導入、レコーディングへ

 話を元に戻すと、僕はギターを手に入れる前に、小さなキーボードを買っていた。パソコンのキーボードではなくて、楽器のキーボード。「もしもピアノが弾けたなら」と唱っていたのは西田敏行だが、僕の場合はピアノが弾けなくてもいっこうに構わない。パソコンから操作するのが目的だからだ。この時に買ったのは、Casio のものだった。鍵盤が小さくて普通にピアノを弾く人には若干不便なものだったが、100ドルという価格でMIDI 端子がついているという、ある意味で貴重品でもあった。(注3) このキーボードは音色が20種類あって、その中でもピアノとドラムの音がなかなかリアルだった。

 ちょっとまて、MIDI って何? という人のために説明しておくと、MIDI とはMusical Instrument Digital Interface の略で、つまり、楽器とデジタルデータをやりとりするための規格だと思っておけばよし。当然、楽器の方にMIDI 端子がなくてはならないし、パソコン側にもMIDI で楽器とデータをやりとりするためのソフトが必要。パソコンから楽器を操作するだけではなく、楽器で演奏したものをパソコンに送り込んで楽譜にするという芸当もあり。パソコンの代わりに、シーケンサーを使うこともできる。

 で、このキーボードとApple IIgs をつなぐのが、Apple MIDI Interface という機械で、当時で80ドル程度とかなり安かった記憶がある。パソコン側では、モデムやプリンターをつなぐシリアルポートに接続する。幸い、Music Studio がMIDI 対応でもあったので、キーボードとApple MIDI Interface を手に入れた僕はさっそく、自分で作った曲を、パソコンを経由でキーボードに演奏させた。

 ドラムの音がリアルだったこともあり、これに合わせてギターを弾くと、「一人でバンド気分」なのだ。自分で言うのもなんだが、それからというもの、バカみたいにギターとパソコンばかりをいじっていたので、音楽の知識は飛躍的に伸び、ギターの腕前もめきめきと良くなった。(注4)

 そうなると当然、自分の作った曲をテープに録音したくなる。当初は2台のラジカセを使った。ますパソコン経由でドラムを演奏するキーボードと、自分で演奏するベースを合わせて録音する。そのテープをダビングする際にギターを混ぜ、2度目のダビングでギターソロを入れ、3度目のダビングで歌を入れるという、涙ぐましい努力をしていたのだ。当然、完成品の音質は極悪。曲よりも雑音の方が大きく、親切にもテープを聴いてくれた友達が「曲はともかく、ノイズに耐えられない」というほどだった。

そして僕は「Apple IIgs 貧乏」に

 かくして、1990年の春。僕はマルチトラック・レコーダーの購入を決意した。(注5)

 しかし、お金がない。一時期は祖母が新潟県からアメリカを訪ねてやってきたこともあり、お小遣いをもらって羽振りも良かったのだが、既にベースやキーボード、それにApple MIDI Interface などを買っており、財政状況は極めて厳しかった。当時の僕はアメリカに住んでおり、就労ビザがないので合法的にはアルバイトもできない。こっそりと日本人(我が家を含む)を相手に芝刈りや雪かきで小遣いを貯めていたのだが、それもギターの弦や機材に使い果たしていた。

 そこで父親は、僕にローン方式を提案した。きちんと返済計画を立てれば、マルチトラックを買うだけのお金を貸してあげよう、というのだ。ちなみに当時、4トラックのレコーダーが450ドルだった。一方、世間ではアルバイトなどの最低賃金が3ドル50セントから4ドルに上がるかどうかという時代で、僕はこれよりもやや割高の1時間5ドル程度で芝刈りなどをやっていた。自宅や知り合いの家で週に2件の芝刈りをしても、返済には45週間かかる。これは他に何も買わないという前提があるので、実際にはもっと長くかかる。(注6)

 それでもなんとか返済計画を立てて、4トラックレコーダーを手に入れた。(注7) マックについては「マック貧乏」という言葉があるが、僕は高校生だったこの頃から、「Apple IIgs 貧乏」だったのだ。ただ、MIDI 機器とマルチトラックレコーダーは十分にその価値があり、僕はそれから高校を卒業するまでの2年数ヶ月の間に90曲近くを作曲して、レコーディングしていた。その蓄積はその後も長く生き続け、このサイトにあるハイパーカードやShockwave の作品にも、自作の曲が盛り込まれている。

(つづく)

[目次に戻る][次へ]


(注1)日本と違って住宅事情が良いので、ドラムはそこそこに人気があった。ベースは中途半端ということか?

(注2)ある意味でピカソに失礼かも知れないが、とにかく不可解だった。

(注3)このキーボードはその後、僕が日本に帰国してからもずっと使い続けた。後にもっと高性能なMIDI 音源を買ったので不要となったのだが、その頃には片手ならちょいとしたメロディーぐらいは弾けるようになっていたので、なんだかんだといいながら持っていたのだ。ただ、社会人になるのに伴い、いじる暇がなくなるだろうと見越して友達に譲った。型番がいまひとつ思い出せないが、とにかく玩具に近い作りだった。その割には、音質はなかなかだったのだが……。

(注4)そうはいっても、僕は学校ではスポーツマンとしての存在感の方がずっと大きかった。要するに、勉強以外のことを一生懸命にやっていた、という感じなわけです。

(注5)カセットテープには4つの「チャンネル」、もしくは「道」があると考えて欲しい。A面を聞いているときにはこのうち、1番目(左)と2番目(右)を聞いていることになる。3番目と4番目の「チャンネル」はB面の右と左にあたり、A面とは逆に向かう「道」になる。普通のラジカセでA面に録音すれば、1番目と2番目のチャンネルが一気に塗りつぶされ、B面に録音すれば3番目と4番目が一気に塗りつぶされる。マルチトラック・レコーダーは、この1つ1つのチャンネルを別々に録音できるようにしたもので、「道」もすべて1方向になっている。1番チャンネルにドラムを録音した後に、2番チャンネルにギターを録音し、3番目にドラム、4番目にボーカル、と録音していけば、あたかもバンドが演奏しているようなデモテープを、一人で作ることが出来る。

(注6)今思うと、よくそんな給料で働いていたな、と思う。もっとも、この返済計画は途中で日本に一時帰国して、数年ぶりに会った祖父母や親戚にたっぷりとお小遣いを貰って帰ったことで、一気に解消された。と、思う……というか、うやむやになっているような気がしないでもない。

(注7)Fostex というブランドの4トラックで、ピンポン機能もあった。ピンポン機能というのは、つまり、トラックからトラックへと、ダビングをしながら新たに音声を加えていく方式。普通に使うと、ドラム、ベース、ギター、ボーカルで4トラックになるが、途中でドラムとギターとベースを合わせて1トラックに入れれば、残りの3トラックをボーカル、リードギター、バックボーカルに当てるという使い方が出来る。